永遠と横道世之介
2023
毎日新聞出版
毎日新聞出版
39歳になったカメラマン・横道世之介が暮らすのは、東京郊外に建つ下宿「ドーミー吉祥寺の南」。
元芸者の祖母が始めた下宿を切り盛りするあけみちゃん、最古参の元芸人の営業マン礼二さん、書店員の大福さん、大学生の谷尻くんらとゆるーっと暮らす毎日に、唐突に知り合いのベテラン教師ムーさんの引きこもりの息子一歩が入居することになって……。
下宿仲間たちと繰り広げる、温かくてしょっぱい人間ドラマ。
元芸者の祖母が始めた下宿を切り盛りするあけみちゃん、最古参の元芸人の営業マン礼二さん、書店員の大福さん、大学生の谷尻くんらとゆるーっと暮らす毎日に、唐突に知り合いのベテラン教師ムーさんの引きこもりの息子一歩が入居することになって……。
下宿仲間たちと繰り広げる、温かくてしょっぱい人間ドラマ。
あの男が帰ってきた――!横道世之介の三部作、いよいよ完結です。じつは13年前、「横道世之介」が誕生したのも同じ毎日新聞でした。「悪人」に対して、「善人」をテーマにと生まれた(と聞いています)このキャラクター、中年にさしかかって、どんな大人の男に成長したのかと期待したものの、中身は大学生の頃とも、20代半ばともちっとも変わっていない(笑)。あいかわらずマイペース。誰に対してもフラットで自然体、そして愛されキャラ。本作では吉田さんご自身「これといったストーリーはないんですよ」とおっしゃるとおり、世之介とその仲間たちの日常がのどかに綴られていきます。ですが、表面的な穏やかさに油断は禁物です。それこそが吉田さんの巧妙な企みに違いありません。読むうちにじわじわとその「普通」が印象を変えていきます。「愛されキャラ」世之介の正体は、じつは世にも稀な「愛を与える人」であり、ごく普通の(と思える)日常こそ偉大で、愛に満ちていると気づくはず。読後の多幸感は強烈です。加えて二つほど注意を。一つ、一度ページをめくったが最後、途中で手を止めるのは困難です。二つ、できれば一人になれる場所で読んでください。かならず何カ所かで涙がこぼれます。それも大量に。
(毎日新聞出版 K)