T でもさすがに自分が撮った『悪人』では泣きませんか。試写で号泣だったって人も多いですけれど。
O あれは泣いちゃうわよ。
T 泣いちゃいますよね。
L ジーンとはきましたけど。
O どのあたりで?
L 佳乃の幽霊のシーンと、最後の祐一の顔ですね。
Y でもあれって、泣かそうという意図のもと作っていないんですよね。
T そこがいいんですかね? お涙ちょうだいをねらっていると逆にしらけちゃうかも。
Y このシーンがもう少し続くと泣けるっていうところでスパッと切っているんですよ。だから泣かないように、泣かないようにっていう編集をしているといった方が良いかもしれない。最後のシーンは一体どうなるのか、自分でもずっと気になっていたんです。でも今観ると、あのシーン以外考えられない。脚本作業の中で、監督が、「すべてのシーンがクライマックスになるように作りたい」とおっしゃって、思わず鳥肌が立ったんだけど、となると、あのラストシーンは、クライマックスの中のクライマックスですからね。
L ラストは、自分自身最後の最後までどうなるか分からなかったです。でも実は祐一の顔だけ撮り直していて、その時にはこれを最後(のシーン)にしようって決めていたのかも。
Y 次回作は決まっているんですか?
L いやまだです。『悪人』の公開までは、こっちに集中しようと思って。
T 人の心を動かしたり、物事が大きく変わる時って、無私というか利他の心が働きませんか? そういう意味では『悪人』の映画ってみなさんが自分のためじゃなくて作品のために動いていたのかな、って思うんですが。
Y みなさん本当に『悪人』の世界に入り込んでいた。妻夫木さんは人を殺した人にしか見えなかったですもん、現場で。この前、誰かに指摘されて「あぁ、本当だ」って思ったんですけれど、(『悪人』で深津絵里さんが演じる)光代って最初から最後まで自転車がついて回るんですよね。
O それは狙っていたの?
L 自転車が光代のキーになる、とは思っていましたね。
T 光代が自分の人生は国道を行ったり来たりしているだけだって独白するシーンがありますけれど、つまり自転車で移動できる距離が光代の人生だったんですよね。それが祐一の車が登場したことでドラマチックに変わっていく。
Y 監督と僕は最近雑誌の対談なんかでもそうとう『悪人』話はしているので、ここではもう良いかなとか思っていましたが…。
O みんな、『悪人』の映画になると、それぞれの思い入れがあってどんどん出てくるわね。 
T 本当に。作り手前にして、観客が熱く語っちゃいますから(笑)。 
Y 主演の妻夫木さん、深津さんも『悪人』のキャラクターがなかなか抜けなかったっていってましたね。 
L それ嬉しいですね。完全燃焼した作品ですから。
end
(撮影協力:Opp)